累計発行部数1400万部※を超える、漫画「テラフォーマーズ」。
※2018年10月現在
アニメや映画化にまでなったテラフォーマーズですが、今更ながらこんな素朴な疑問が出てまいりました。
ということで、物理教師アニメで掘り下げていこうと思います。
テラの語源については、こちら。
火星移住が可能なのかどうか

と思う人が大半だと思いますので、まずは簡単に火星についての特徴をまとめますね。
ちなみに地球のように火星を居住可能な惑星に変える計画のことを、火星の地球化計画(テラフォーミング計画)と言います。
火星の基礎データ
意外に知られていませんが(もしくは誤解されている?)、火星には地球によく似た部分と大きく異なる部分があります。
参考 JAXAホームページ
地球と火星で似ているところ | 地球と火星で似ていないところ |
---|---|
四季がある | 大きさは地球の半分程度 |
大気がある (しかし、95%以上が二酸化炭素) | 平均気温は-50度~-60度 (冬の寒い夜には-140度近くになることも) |
水の氷がある (二酸化炭素との混合の状態。過去には液体の水もあったかもしれない。) | 大気が地球の150分の1~100分の1程度しかない |
1日がほぼ24時間 | 磁場がほとんどない(失った?) |
衛生が2つある (地球は1個=月、水星・金星にはなし) | 意外と遠い (地球ー太陽間の半分くらい地球から離れている) |
ちなみに木星以降の惑星にも衛星はありますが、その数は桁が1つ増えます。
あと意外と遠いことを知らない人が多いみたいですね。
地球に最も接近したと言われている2018年でも、約5,800万kmほど離れています。
酸素の増やしたり寒さ対策など、火星に住むためには課題が山積み
火星がそのまま住めない理由としては、主に下の4つ。
- 液体の水が無い
- 寒い
- 酸素が無い
- 磁場が無い
地球と似ていない部分が、そのまま居住不可能な理由になります。
これらを解決するために、漫画テラフォーマーズでは苔とゴキブリを放つわけです。
漫画の世界から切り離して(ゴキブリには頼らず)実際のテラフォーミング計画はどうするのか? というと
- 温室効果の高いメタンなどを散布する。(温暖化)
- 火星の衛星軌道上に(人工衛星のように)大きな鏡を置いて、地表を効率よく温める。
- 地球の歴史と同様に(二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す)植物を大量に定着させ、長い年月をかけて酸素を増やす。
こんな方法が可能なのではないか? と考えられています。
他にも、火星が住むのに適さない問題点があります。
火星は小さいので自身の重力が弱く(地球の3分の1程度)、さらに冷えきった内部のせいで磁場が発生していません。
磁場がないと有害な電波が常に地表にまで降り注ぐわけですから、生物が発生しにくくなります。
さらに重力が弱いということは、様々なモノが定着しにくいことを意味します。
たとえば水蒸気や酸素なんかが出来ても、割と簡単に宇宙空間へ放出してしまうでしょう。
火星に住むには、なかなか課題が山積みなんです。
漫画テラフォーマーズに出てくるテラフォーミングの疑問点
おまたせしました。

漫画テラフォーマーズのテラフォーミング計画について、物理教師として疑問に思ったことをぶつけてみます。
ゴキブリ爆発死
火星の気圧は非常に低く(6~9hPa)、地球上の気圧(1013hPa)と比べるとわずか0.6~0.9%ほどしかありません。
参考 JAXAホームページ
火星に連れて行ったゴキブリは、おそらく地球産。
内圧(ゴキブリの体内の圧力)は、地球の大気圧と同じと考えて良いでしょう。
たぶん。
そんなゴキブリを100分の1~150分の1という気圧の火星に放った途端、次々と内側からはじけ飛ぶと思います。
いくらゴキブリが堅いキチン質の殻に守られているとは言え、100倍以上もの圧力差に耐えられるとは考えにくいです。
よって火星に地球産のゴキブリを放った途端、ゴキブリたちの大量爆発死が引き起こされると思います。
進化スピードが恐ろしい
少なくとも3億年ほど前からいると言われているゴキブリ。
大先輩なのでこれからはゴキさんと表現します。
そんなゴキさんのフォルムや構造は、3億年前からさほど大きくは変わっていないようです。
3億年という長い年月の間
- 地球に巨大隕石が落ちてこようが
- 氷河期が何度でもやってこようが
形や機能を大きく変えずに繁殖し続けたゴキさんの生命力たるや、すさまじいものがあります。
が、しかしですよ。
漫画テラフォーマーズの世界では、わずか500年かそこらのたった数百年で、高度な知能を持ち合わせた姿にまで進化を遂げています。
話はそれますが、地球上で約10億年前に発生した多細胞について。
それらは、地球に誕生してから数億年かけて、多種多様な動植物へと進化していきました。
(カンブリア紀の大爆発という。)
それと比べると火星のゴキさんの進化のスピードは、100万倍の進化スピードと言えます。
人類の場合と比較しても、サルからヒトには600万年くらいかかっていますから、人類の1万倍以上のスピードで進化してきたんですね…。
ちなみに地球産のゴキさんの寿命は、3~5ヶ月といわれています。
人間の寿命が60~80年程度(720ヶ月~960ヶ月)なので、それと比べると200〜300倍のスピードで世代交代(成長や進化)できるのかもしれません。
再び話がそれますが、日本人の身長は70年間で10cm以上は伸びています。
この変化は実に6~7%ほどになりますが、それでも構造上大きな変化とは言いがたいです。
言い換えれば、数十年ではその程度しか変化できないということでしょう。
火星で生まれたテラフォーマーは、体がもろいかもしれない
あまりゴキブリの話でこの記事を埋めたくないのですが、最後にゴキさんネタでもう一つ。
重力の無い宇宙空間で長く滞在していると、骨密度が低下し(地上の)骨粗鬆症の患者の約10倍のスピードで骨の密度が低下していくというデータがあります。
テラフォーマー(火星で独自に進化したゴキさんの呼称)が火星産なのであれば、地球の3分の1程度の重力環境の中で生まれ育ったということになります。
(ゴキさんには骨がありませんが)地球の3分の1の重力で過ごすのに適した体となっているのならば、耐久度は随分と落ちていると思います。
コケだけで緑化が可能か?
最後に、火星の地球化計画のもうひとつの立役者「苔」についても疑問があります。
コケ類は乾燥に強いと言われていて、十数年の乾燥くらいなら繁殖できると言われているので、体全体で水分を補給するメカニズムをとるコケ類は、わずかな水分でも繁殖しやすいのかもしれません。
(約35億年前の地球上で)大量の酸素を生み出すことになったきっかけの生物「シアノバクテリア」なんかも、乾燥に強いと言われています。
ただいずれにしても、単体で繁殖をし続けるには限界があります。
というのも生命が循環するためには必ず、分解者と呼ばれる微生物が必要になるからです。
火星の地上には(爆発を逃れた)ゴキさん達が大量にいるわけですから、奴らが排泄する有機物を分解する意味でも必要ですね。
微生物の働きを持った特殊なコケだった可能性もあるかもしれませんが、そんなコケは見つかっていません。
ちなみに過酷な環境でも生きていられる微生物はいます。
クマムシの遺伝子情報を手術によって移植したコケなんかもしれないですね。
クマムシのようにどんな環境でも死なない体をもつ「アンデッドバン 」については、こちらの記事で解説しています。
2012年から連載開始している「七つの大罪」は、2019年の今もなお週刊少年マガジンで連載中です。本日はそんな長く愛されている七つの大罪について、物理教師目線で屁理屈こね興味深い現象を解説していきます。 […]
テラフォーマーズ考察のまとめ
漫画テラフォーマーズに出てくるテラフォーミング計画は、発想がものすごく面白いのですが、正直なところ非常に無茶のある設定だと言わざるを得ません。
最後に余談を一つ。
地球上では、ゴキブリを殺すのに一般的には殺虫剤を使うと思います。
しかし、呼吸のメカニズムやゴキブリの構造を知っている人なら中性洗剤など界面活性剤を含むものでも殺せる事をしっています。
おそらくテラフォーマー達も口こそあれど、呼吸はゴキブリと同じく気門(ゴキブリが呼吸する器官)で行っている可能性が高いです。
表面(の黒光り)の描写から、全身が油に覆われているようにも感じます。
となると、中性洗剤は有効だと思うんですよね。
上位ランカーには専用武器が与えられていますが、下位ランカーの戦闘員達にはぜひ中性洗剤を発射できるようなスプレーを持たせてあげましょう。
下手な銃よりもよっぽど効果に期待がもてます。
じょじょ、じょーじ(お読み頂きありがとうございました)